クロガネ・ジェネシス

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第一章 激闘湿地地帯

 

零児の憂鬱



 そこがどこかはわからない。

 周りが暗い。そもそもここは現実に存在している場所なのかどうかすらわからない。方向感覚すら今の自分に存在しているのかも疑問だ。

 ただ分かるのは今その場所はとても暗いところであるということ。

 そして……。

 いたるところから顔のようなものが見えている。

 その顔は口々に何か言っている。

 彼はなんと言っているのか聞き取る必要もなくそれが理解できた。なぜならこれは自分への罰なのだから。

『お前が殺した』

『もっと生きていたかった』

『夢も希望も奪われた』

『なのになぜお前は生きている?』

 …………………………………………。

 彼は答えない。何を言ってもそれは生きている人間の傲慢に過ぎないと思うから。

 多くの人間を殺してきた自分が見る夢。罪深き自分は未だに制裁を与えてもらっていない。そんな自分が見る夢として、これ以上に相応しい夢も存在しない。

『なぜだ……なぜ!?』

『なぜ誰も罰を与えない!』

『コロセ! コロセェエエエ!!』

『シネ』

 増念渦巻く闇の中で彼はただそれを聞いていることしか出来ない。

 耳を塞いでも聞こえてくるだろう。目をそらしても思い出してしまう。

 声の数はどんどん増えていく。やがて彼は声を漏らし始める。

 聞いていたくなかった。しかし、自分にはそれを聞く義務がある。

 そう思うから彼はその声にあえて耳を傾ける。

 心がそぎ落とされていくかのような奇妙な感覚。

 そう、彼は夢に自分の心を破壊されていた。

 そのとき。

『……ゃん……ちゃん!? レイちゃん!?』

 火乃木の声で、彼は現実に引き戻された。



「……!」 

 目をはっきりと開ける。そこには心配そうに自分の顔を覗き込んでいる火乃木がいた。

「火乃木……」

 ボーッとした目で火乃木を見ながら零児は言った。服装はあの時零児に見せた露出の高いミニスカだ。どうやら気に入ったらしく今後はこの格好で旅をすることになりそうだ。

「大丈夫? うなされてたよ?」

「あ、ああ……」

「……また夢……みたの?」

「ああ……今……何時だ?」

「7時だよ。もうみんな起きてる」

「……先に行っててくれ。すぐ行く」

「うん。わかった」

 こういうとき自分のことをわかってくれている火乃木の存在はありがたい。

 辛いときは余計な心配をされるより、ほおっておいてくれたほうが楽な場合もある。火乃木は零児がそういう人間であることを誰よりも知っている。

「……俺は、一生この夢と付き合っていかなければならないんだろうな……」

 ボソッとつぶやきながら零児は着替えを済ませ階下へ向かった。



「ご馳走様」

 朝食は誰よりも早く零児が食べ終わった。火乃木を除く女性人は今までと違いどことなく暗い表情をしている零児を気にかけていた。

「どうしたの零児?」

 そう問いたのはアーネスカだった。アーネスカの皿にはまだ目玉焼きとウィンナーが残っている。

「別に……食欲がないだけさ」

 そういうと零児は早々に宿から出て行った。

「クロガネ君……随分暗かったね。あんな顔見たの初めてだよ」

「レイジ……」

 ネルとシャロンもアーネスカ同様、昨日までの零児の変化っぷりに驚いていた。

「火乃木。あんた何か知ってる?」

 疑問に思ってアーネスカが火乃木にそう質問した。

「レイちゃんは……夢を見たの」

「夢?」

「うん。思い出したくない……悪夢だって。どんな内容なのかは教えてくれないんだけど、その夢を見たら大抵1人になりたがるんだ」

「あいつ……結構ナイーブな性格してたのね」

「まあ、レイちゃんならすぐに元に戻るよ。今日一日はほおっておいてあげよう。レイちゃんにとってそれが一番嬉しいはずだから」

「そう……」

 そんな零児の心を代弁するかのごとく、今日の空は曇っていた。



 いつ雨が降り出すかもわからない空の下、エストの町を零児は1人で歩いている。

 かつて、零児は多くの人間を殺してきた。

 もちろん自分から望んでそんなことをしていたのではない。

 理由はよくわからない。ただ、そうするように誰かに命じられるまま殺していた。それを疑問に思うことすらなく、平然と。

 しかし、自分がなぜこんなことをしているのか、と疑問に思い始めた頃からは違った。人を殺すたびに自分の心が締め付けられるのを感じた。

 そしてある日。零児は造反を決意した。もう誰も殺したくなかったから。

 自分に命令していた人間を殺し、零児は誰からも命令されることのない自由を手に入れた。

 しかし、決して幸せではなかった。

 過去に殺した人間達は夢の中で口々に自分を罵る。そんな夢を毎日見るようになった。

 同時に疑問を抱くようにもなった。なぜ自分は裁かれないのかと。

 どれだけ時間が経とうとも、零児に裁きを下そうとするものは現れなかった。それが何より辛かった。誰からも裁かれないのが辛かった。

 そんな折に、零児は火乃木と出会った。

 火乃木は人間の手によってギロチンにかけられ、殺されようとしていた。

 それを見た零児はかつての自分の所業を思い出すと同時に、誰かが目の前で死ぬ瞬間をもう見たくないという思いに目覚めた。だから火乃木を助け出した。

 そして、カイルと言う保護者に出会い、以降は何事もない普通の少年として育てられた。

 悪夢だって忘れられるかもしれないと思った。

 しかし、実際は数週間に1回は悪夢を見ていた。その夢を見るたびに零児は心をかき乱された。そしてそのたびに思った。

 ――俺は……生きていていいのだろうか?

 そんなことを考えていたとき。誰かの肩がぶつかった。

「おい、気をつけろ!」

「あ、すみま……」

 ぶつかった相手と零児の思考が一瞬止まった。零児がぶつかった相手はリーオ・ベルロットその人だったからだ。

「なんだお前か……」

 零児は興味なさそうにそう言った。

「て、てめぇ……出会い頭にそれかよ!」

 リーオは明らかに怒りをあらわにし零児に食って掛かった。元々鋭い目がさらに鋭くなる。頬のさんま傷のせいで睨まれたら大抵の人間は普通は足が竦《すく》んでしまうことだろう。

 リーオが先日何をしたのか。零児はそのことを思い出していた。いつもなら怒りが沸々《ふつふつ》と湧き上がってくるのだが、今はそんな気分にはなれない。

「お前如きに一々謝るような頭は持ち合わせていねぇ……」

「言ってくれるじゃねぇか鉄ぇ! 俺より背ぇちっさくて女に囲まれてヘラヘラしてる奴の台詞とは思えねぇぜ」

 皮肉を交えて零児を嘲笑し、挑発する。

「別に俺は女に囲まれてヘラヘラしてるわけじゃねぇ。第一そんなことお前に関係ない……」

 しかし一々取り合ってなどいられない。零児は無視してその場から立ち去ろうとした。

「おい待てよ!」

「……なんだよ……うるせぇな! 俺になんか用でもあんのかよ!」

 いい加減リーオが鬱陶《うっとう》しい。イライラしてくる。同時にムカムカとした感情と供に一種の昂ぶりが零児の心に生まれた。

「見逃されたみてぇでムカつくからよ。ちょっと俺と勝負しろや!」

「あぁ?」

 目の前の男は何を言ってる? 零児は激しく疑問に思った。

 なんで1人になりたいときに限って顔も見たくないような男と勝負しなければならない。そもそも何で勝負するつもりなのか。

「勝負ってなにすんだよ?」

「魔術なしの、一対一の決闘だ! 俺はてめぇに負けるってのだけは我慢ならねぇんだよ!」

「……めんどくせぇな」

 こんな奴と一々決闘なんかしていられない。本気でそう思う。しかし、同時に今の暗い心をどうにかできるのなら付き合ってやるのも悪くないかとも思った。

「相手がお前ってのは不服ではあるが……いいだろう。少々付き合ってやる」

 言ってリーオに向き直る零児。その2人の周りでピリピリした空気を感じた聴衆が遠巻きにその様子を眺めていた。

「合図だ……」

 リーオは懐から銅貨を1枚取り出して、それを指で弾いた。銅貨が地面に落ちたら合図と言うことなのだろう。

 その銅貨が地面に落ちた瞬間、リーオは自らの腰にある2本のダガーナイフを構える。

 が、それより早く零児の剣、ソードブレイカーがリーオの左手のダガーナイフを弾き飛ばした。

 零児は銅貨が落ちると同時にソードブレイカーを構えるのではなく投げつけたのだ。

「なに!?」

 驚く暇すら与えまいと、零児は前傾姿勢で走り出し、右手に向かってとび蹴りを放った。

 その瞬間、リーオの右手のダガーナイフも地面に落ちることとなった。

「あ……!?」

 声をあげる間もなく、零児は右手をリーオの顔面に突き出した。

「勝負ありだな」

「な……」

「片手のない奴に双剣で挑んで敗北とは……なさけねぇ」

「……!!」

 何かを言い返したかったが、零児の言ってることは至極もっともで何も言い返せない。

 が、次の瞬間。

 零児の腹に衝撃が走った。

「う……!」

 零児がうめいた。

 リーオが零児の腹部を思い切り殴ったのだ。まったく手加減なしで。口の中からこみ上げてくる血の臭い。零児に心に、憎悪に似た炎が燃え上がった。

「てめぇ……決闘じゃなかったのか?」

「うるせぇ! もう決闘はなしだ! 直接殴り殺してやる!」

「上等だやってみろぉ!!」

 頭に血が上った零児は同様にリーオの顔面を強く殴る。同時にリーオの手刀が零児のわき腹に突き刺さる。

「このっ……!」

 零児は右足を振り上げてリーオの顎を蹴り上げた。そのまま振り上げた足を落とし、かかと落としをする。

 しかし、その攻撃はリーオにヒットすることなく、空を切った。リーオはそれを回避すると同時に零児の顎に拳を叩き込む。

 もはや決闘でもなんでもない、ただの喧嘩だ。

「昔からてめぇは気に食わなかったんだよ!」

 悪態をつきながら、リーオは続けて腹を殴りつける。

 その直撃を受けながら零児も負けじと言い返した。

「俺もてめぇみてぇな奴は嫌いだよ!」

 自らの額を全力でリーオに向けてぶつける。いわゆる頭突きだ。

「か……が。うううおおおおお!!」

 その直後リーオは零児の右手を掴みすばやく足払いをした。

「しま……!」

 零児はそのまま仰向けに倒れる。左手がないため体を支えられなかったのだ。

 その直後、リーオは左の膝で零児の右腕を押さえつけ、馬乗りになって零児の顔面を容赦なく殴り始めた。

「お前さえいなければ、お前さえいなければ!」

 何度も何度も頬を殴りつけ、零児の顔はどんどんあざだらけになっていく。しかし零児は動けない。

 ――なんだ……なんで俺こんなことになってんだ?

 何度も顔を殴られ零児の意識は朦朧としてきた。こんな痛みに耐えて何をやっているのか。零児は自分の今の状況に疑問を抱き始めていた。

 ――なんで……。

 そのとき。

 誰もが予想しなかった音が響き渡った。その場にいた聴衆も零児もリーオ本人もその音が何の音なのかは気づいていた。

 しかし、なぜそんな音が今響き渡るのか?

 乾いた破裂音。その一発で多くの人間を黙らせるだけの力を持った兵器。

 銃と呼ばれる武器をリーオに向けたアーネスカがそこにいた。

「見逃してあげるからどきなさい……」

 アーネスカは静かに、しかし途方もない怒りを称えた表情でリーオを睨みつけている。

「……」

「アーネスカ……」

「頭の風通しでもよくして欲しいのか? 早くどけ!」

 アーネスカがスラングで言い放つ。聞いた瞬間誰もが縮み上がりそうなほどの凄みがそこにあった。

「……ち」

 リーオは立ち上がり、その場から走り去っていった。

 そして、アーネスカが零児の元に駆け寄った。

「大丈夫零児!? 顔腫れ上がってるじゃない!」

「あ、ああ……平気だ」

「平気なわけないでしょう! 今宿に連れてくからから。立てるわよね?」

「ああ……」

 アーネスカは零児に肩を貸して零児を立ち上がらせる。

 ――何の意味もない喧嘩だった……。

 零児はそう思った。



「とりあえず安静にしてなさい。後で食事持ってきてあげるから」

「ああ……」

 零児の自室。ベッドで横になっている零時にアーネスカが言った。

 零児の顔はあざだらけになっており、とても痛々しかった。もちろんみんな驚いた。

 すぐさま手当てを施されて、自室で横にさせられたわけだ。もっともこんな状態では動く気になどなれはしないが。

「あの男が嫌いなのは同感だけど喧嘩なんかやめなさいよ。あそこにあたしが偶然居合わせたから良かったもののあのまま続いてたらアイツ間違いなくあんたを殺してたわよ」

 アーネスカがあの場に居合わせたのは確かに偶然だった。

 アーネスカはマジックアイテムの類を買うために商店街を歩いていたのだがその時喧嘩騒ぎを聞きつけて急いでやってきたのだ。

 そこで喧嘩をしていたのが零児とリーオだったわけである。

「じゃあ、また後で来るわね。大人しく寝てなさい」

「ああ……」

 さっきとまったく同じ調子で零児が返した。

 ちゃんと聞こえているのかいまいち不安だったが、アーネスカはとりあえずその場から去った。自分がその場にいても気の利いた話なんか出来ないし、1人のほうが気が楽っぽかったからだ。

 外は雨が降り始めている。

 零児はその雨をボーっと眺めた。

 ――もし、この雨に俺の罪を洗い流してもらうことが出来たら。

 そんなことが出来たらどんなにいいことか。しかし、そんなことは出来ない。

 過去の罪は消えることはない。殺した自覚としてその心に永遠に残り続けるのだ。

 ――やめよう。早く寝てしまおう。その方が色々考えなくてすむ。

 零児は目を閉じてそのまま眠りについた。殴られて腫れた部分がいつもに比べて熱く感じる。それが返って心地よかった。



 それから数十分して昼食の時間が来たが。零児は未だに目を覚まさない。

 そんな零児の部屋をノックする者がいた。ノックした人物は反応がないことを確認すると、ゆっくりとその扉を開けた。

 その人物は火乃木だった。盆を持ち食事になるパンとシチューを乗せている。

 零児が寝ているのは分かっている。火乃木は食事を零児の部屋に備え付けられている机の上においた。

 そして零児の顔を覗き込む。

「……」

 零児の表情は穏やかだった。今は悪夢を見ていないからなのか、元からこんな寝顔だからなのかはよくわからない。

「なにやってるんだよ……ばか」

 零児は今眠っている。火乃木はそんな零児がひょっとしたら2度と目が覚めないのではないかと言う不安に駆られてしまった。

 ――なんでいっつも……ボクには何も相談してくれないんだよ……。

 零児にとって火乃木はなんだろう? 火乃木のその疑問は3年も前からずっと心にあった。零児は火乃木に過去をほとんど話そうとしない。

 辛いときや悲しいときも、全部自分で飲み込んで誰の助けも借りようとしない。

 火乃木は零児のことを一番よく分かっていると自負している。いや、していたというほうが正しい。

 火乃木が知っているのは明るいときの零児だ。こんなに暗い零児のことなどよく知らない。

 相談でもしてくれればいいのだが、男のプライドなのかそれとは違う何かが邪魔しているのか、零児は火乃木に何かを相談するということがなかった。

 火乃木が知っているのは表面上の零児でしかない。

 その事実が妙に苦しかった。

 火乃木が知らない零児の一面。それがどんなものなのかはよくわからない。

 だけど、自分の一面は多分、全て零児は知っているに違いない。

「レイちゃん……レイちゃんは……何に悩んでいるの? ボクは……レイちゃんの味方だよ?」

 眠っている零児に火乃木は優しく呼びかけた。帰ってくるはずのない答えを心のどこかで期待しながら。

「お願いだから……ボクにもっと教えて……レイちゃんのこと」

 零児の寝顔を眺めながら火乃木はそう呟いた。



「それではこれより、湿地地帯地下洞窟より発見されたマナジェクトに関する分析結果を暫定的にですが、説明いたします」

 ジルコン・ナイトとアルゴース王、そしてその娘クレセリス王女がいる講堂。

 明日は2回目のヘビー・ボア討伐作戦がある。現在行われているのはその日に決行される作戦の概要説明と湿地地帯の洞窟で見つかったマナジェクトについてだった。

「結論から申し上げますと、これはマナジェクトであって、マナジェクトではありません。これはマナジェクトの形をした魔術装置です」

 講堂の中心には地下道靴で見つかった青白く光るマナジェクトがある。説明を行っていたジルコン・ナイトはそれに目を向けながら言った。

「では、何の魔術装置であると言うのだ?」

 アルゴース王が問いただす。

「その前にまず周知していただきたい事実があります。このマナジェクトは魔力が枯渇したマナジェクトでした。そこに人間の魔力を注入した上で魔術の媒体としたマナジェクトの形をした魔力装置、それがこのマナジェクトの正体です。そして、この魔術装置は変身の魔術装置でした。組み込まれていた変身内容は巨大化です」

「バカな! 巨大化の変身魔術だと? そのような魔術はルーセリアですら開発されていないぞ!」

 通常変身の魔術はその発動のために唱えるべき呪文が非常に長い。これは対象者の肉体の形成などに大きく関わるからである。手や足、その他各部位に至るまで細かい呪文を唱える必要があるのだ。そのため変身の魔術はその呪文を予め刻み込まれたカードによって行われる。

 そして変身の魔術は人間が人間以外の生物に変身するために用いられるのがほとんどで、肉体が小さくなったり大きくなったりと言う直接大きさに関係するような変身の魔術式はルーセリアでも開発段階なのだ。

 そもそも直接巨大化させるのは今回のヘビー・ボアのような巨大生物を生み出してしまうと言う可能性から理論だけは研究されていても実際に使われることはないとされている。 理論すら構築されていない上に、治安上の問題もあるため巨大化の変身は現時点では誰も行うことが出来ないはずの魔術なのだ。

 しかし、湿地地帯の地下で見つかったマナジェクトの形をした魔術装置はそれを可能にしてしまっている。そうヘビー・ボアという巨大生物を生み出してしまっているのだ。

「もし、そのマナジェクト……いや魔術装置が変身の魔術だったとしたら、その魔術装置を細かく解析していけば巨大化の魔術式の理論を構築できるかもしれんな」

「私達もそう思いました。しかしながらこの魔術装置には魔術式が記されていませんでした。そのため魔術装置としての役割も既に果たせなくなっております」

「どういうことだ?」

 魔術式が記されていない魔術装置などありえない。魔術式。即ち呪文が刻まれているからこそ、魔術装置の魔術は発動できるのだ。

「どうやら、魔術装置とは別に魔術式を記した何かがあったのかと思われます。しかし、それがなんなのかは現在不明です。さらなる解析が必要かと」

「そうか……。良かろう、魔術装置の件は解析班に任せることとしよう。ご苦労だったな座ってよいぞ」

「ハッ!」

 魔術装置について説明していたジルコン・ナイトが着席する。

「次は明日のヘビー・ボア討伐の作戦についてだったな?」

「ハッ! それについて私から説明させていただきます!」

 まだ20台くらいであろうジルコン・ナイトが立ち上がる。

「明日のヘビー・ボア討伐作戦ですが、前回の結果を考慮に入れまして、今回はシンプルに行こうかと思います」

「具体的には?」

「氷系魔術によってヘビー・ボアをいぶり出した後、魔術師部隊、近接戦闘部隊の違いに関わらず、全員で各々に動いてもらいヘビー・ボア討伐のために戦ってもらうのです」

「つまり……好きに戦わせるということか?」

「その通りです」

「危険すぎやしないか? あの巨体相手になんの作戦もなしに突っ込ませるだけでは……」

「前回の作戦の際は多くの人間があれと戦って無事生還を遂げています。それに人間側の遠距離攻撃よりも、ヘビー・ボアの遠距離攻撃のほうがはるかに凶悪です。であるならば、各々の攻撃方法で叩いてもらうほうが犠牲者を出さずにすみます」

「ふむ……」

「それだけではありません。我々ジルコン・ナイトが開発した攻撃支援魔術装置、メテオ・ロンドを使用します」

「投石した石を人間がその弾道修正をして攻撃目標に確実に当てることを目的とした装置……だったな?」

「その通りです。ヘビー・ボアがいくら巨体であるとは言え、生命体であることに変わりはありません。この支援砲撃とアスクレーター達の力によって、あれを撃破します。無論……使用には陛下のご許可が必要となりますが……」

「それであれを確実に葬り去ることが出来るのであれば、やってみせよ!」

「ハッ!」

 ヘビー・ボア討伐作戦。次のその作戦で全てが決まる。この場にいるジルコン・ナイト達はみなそう思っていた。

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